こどもの眼 11月号 園長 早川 成
「こどもの眼」
~もりぞうさんの秋~ 園長 早川 成
2月と3月、年度末のこのコーナーでご紹介した「もりぞうさん」。今年もすでに、7月には山本町の森に、9月には高良山の森にお見えになり、年長組の子ども達と遊んでもらいました。
いつどこに現れるのかが全くわからないので、年長さん以外は未だに会ったことがありません。ご存じない方のために改めてご紹介しますね。但し、何しろ神出鬼没で謎の多い方ですので詳しいことはわかっていません。
名前は〝もりのもりぞう〟(ご本人は漢字がわからないらしいのですが、園長は「森を造る人」というイメージで、勝手に〝森野森造〟の字を充てています)。年齢は覚えていないらしく、四季さえわかればあとはどうでもいいとのこと。住所は不定。主に高良山や耳納山麓周辺にいて、お気に入りの森を見つけてはそこに住んでいるらしい。仕事はしておらず、自給自足と物々交換で生活しています。虫や動植物が好きで自然には詳しいけれど、学術的な難しいことはわからないみたいです。子どもの頃から勉強が苦手で遊ぶのが好き(これは今でも変わっていないらしい)。文化的な生活が嫌い(電気・ガスなし、時計やカレンダーも必要なし。)世の中が便利になればなるほど不便になると怒っていらっしゃいました。…とまぁ、簡単にいうとこんな具合です。子ども達と遊んでいるのを見ていると、とにかく好奇心のツボをよく知っているのに感心します。興味をそそる言葉や誘いかけに、子ども達がみるみるハマっていくのがわかる、そんな方です。
さて、先日の高良山登山遠足の時のことです。年長組さんの引率に付くと、朝から「もりぞうさんいるかなぁ?」「もりぞうさんに会えるかなぁ…」と、つぶやく子が何人もいました。林道に入ると「もりぞうさん出て来るかなぁ?」と言い、しばらく進んでいくと「もりぞうさんはどこにいる?」と、尋ねるのです。私は〝もりぞうさん〟の存在感が、いつの間にか子ども達の中でこんなにも大きくなっていることに驚きました。一緒に歩いていたお母さん達と、最初は「子どもらしくていいですね。」「かわいいですねぇ」と笑い合っていたのですが、しばらくすると「きっと森にいるはず」「森に行けば会える!」と信じて待っている様子に、「なんだか切なくなってきますね」と話したのでした。そしてとうとう帰り道には「もりぞうさん来なかったね」という子が数名。それまで「会えるといいね」「近くにいるかも。呼んでみたら?」「そろそろ出てくるんじゃない」と、励ましていましたが、そろそろ限界です。「そうだ。もりぞうさんさぁ、この前、高良山で会った時にケガしたやろ?それで来れんかったっちゃない?」と、言ってみました。「ケガが治ってないのかなぁ」と、誰かが言ったような、言わなかったような…。そんな気がしたそのとき、女の子が一言「ここにいるんじゃない?」と指さしました。見ると、そこにはナントお墓が並んでいたのです?「え~っ!もりぞうさん死んじゃったの?」「いやいや、死んではいないと思うけどなぁ…」と私が言ってもすでにお墓に向かって手を合わせている子がいるのでした。まさか、こんな結末を迎えるなんて…。近くにいたお母さん達と大笑いしながらも、私は先程とは違う意味で、切ない思いにさせられました。実は、9月の森遊びの際、もりぞうさんは子ども達の目の前でふくらはぎに肉離れを起こし、ほんの5分足らずで立ち去ることになりました。いつものように、森での遊び方を指南すべく、斜面を駆け下りて登場し、子ども達の見ている前で張り切って駆け上がろうとした瞬間、2~3歩で激痛が走り、しゃがみ込んでしまいました。そこからが大変です。ケガをしたのはあくまでも〝もりぞうさん〟で、園長ではありませんので、私が足を引きずっているところを見せるわけには行きません。子ども達から離れ、這うようにバスまで行き、園長に戻り、何食わぬ顔で運転して帰りました。園に到着後は何とか職員室に戻りケガの経緯を報告しました。運動会までに何とか治さないといけないことや、どうやってケガをごまかすかなど、今後の対策を練っていると、若い教師が「そろそろキャラクターを変えた方がいいんじゃないですか?」とポツリ。笑いながらではなく、案外冷静に言われてしまい、娘に「年を考えなさい!」と叱られたような気分になりました。そして、「そうだなぁ。いつまでも同じようにはいかないよなぁ。こりゃちょっと考えてみないといかんなぁ」と、静かに思ったのでした。
ご存知のように、老眼が進み、資料や原稿に目を通すのに、眼鏡がなければ文字も読めなくなってしまいました。年少さんの運動あそびでは、ここ数年腰をかばい、膝を気にしながらジャンプをし、でんぐり返りをしては目がくらみそうになっています。不注意によるケガが多いのは子どもの頃からですが、何でもない段差でバランスを崩したり、避けたつもりでぶつかったりするようになりました。
年々自分が思うように身体を動かせなくなってきているのを自覚しています。ということは…です。もりぞうさんやパ〇ツマン他、私の裏キャラ達にも衰えが見られて当たり前ということになるのです。これは困りました。もりぞうさんにしても、運動あそびの忍者にしても、裏キャラには私の分身として活躍してもらわなければいけません。動物のように野山を駆け、忍術を駆使し、時には変身し、空をも飛ぶ勢いで子ども達の前に現れるのですから、その使命のためには私自身の自覚とは違う次元で生きていかないといけないのです。
十代の半ば頃、身体の成長に心が追い付かずに心身のバランスを崩すのが思春期。であれば、五十代半ばを過ぎた今の私は〝思秋期〟でしょうか?心の欲求に身体がついて来なくなり、何とももどかしい気持ちになってしまいます。
とはいえ、そうは言っていられません。高良山遠足では、足場を確かめ、手でしがみつき、四つん這いになって斜面をよじ登る子ども達のたくましさに励まされました。乾パンやおにぎりを嬉しそうに口にする子ども達の笑顔に癒されました。二学期後半に向けて、私の心のエネルギーはもう満タンです。
毎年この時期はアクセル全開。心を開放し、思いっきり弾けて遊びたくなります。でも、さすがに今回は〝無理は禁物〟ということも学習しました。若者に任せるところは任せ、体と相談しながら遊びます!
秋はもりぞうさんの季節!山や森が子ども達を呼んでいます。寒くなってくると、落ち葉や枯れ枝が焚き火を待っています。きっと元気になったもりぞうさんが、久しぶりに子ども達に会いにやってきてくれるでしょう。またご報告しますね。どうぞお楽しみに!
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