こどもの眼 11月号 園長 早川 成
「こどもの眼」
~ 頑張れよ! ~
園長 早川 成
運動発表会が終わって一週間程たったある日、トイレに行くために年長組の廊下を歩いていると、男の子が部屋から飛び出して追いかけてきて、閉めようとするドアを引っ張りながら言いました。
「園長先生、今日から頑張れよ!」
私は笑いながら、「あのね、園長先生はいつも頑張っているんだよ!」と言ってトイレに入りましたが、ドアを閉めたとたんに「なんと面白くないセンスに欠けた言葉を返してしまったか。もう少しやりとりができる返しができなかったか。」と悔やみました。
その子はなぜ急にそんなことを言ったのでしょうか?自分がそう言われているのでしょうか?
それとも誰かが言われているのを聞いたのでしょうか?運動発表会のプレッシャーが残っているのでしょうか?
トイレから出るとすでに立ち去っていましたので、ドアの向こうでその子がどんな顔をしていたのかは知る由もありませんが、私は、その子が言ったのが、ただの「頑張れよ」ではなく、「今日から頑張れよ!」だったことが、気になって仕方がありませんでした。
ですので、例えば「園長先生は頑張っているつもりなんだけど、ちょっと疲れちゃったから頑張るのお休みしようかな?」とか、「頑張ろうって思っても、頑張れない時もあると思わん?」とか、「みんなが頑張れっていうけど、そんなに頑張るって大事かなぁ…。」とか、そんな風に言ってみたら、もうちょっとその子の気持ちを聞くことができたかもしれないなと思ったのでした。
さて、今年の運動発表会はどの学年もお天気に恵まれて無事に終わりましたが、ご覧になっていかがだったでしょうか?
ご承知の通り、特別な演出は何一つなく、派手さもありませんが、私にとっては子ども達一人ひとりの成長や、友達と育ち合う姿、保育者と子ども達が視線を合わせ、言葉を交わしながら創り上げていくプロセスを、今年もまたじっくり味わうことができ、大きな手応えと喜びにあふれる発表会でした。
年中組のサーキットでは、できなかったらどうしよう、失敗したらどう思われるだろうという、大きな不安と葛藤の中で本番を迎えた子がいました。
「頑張れ!」の声援、「きっとできるからやってみよう!」という励まし、「出来なくても失敗しても先生がそばにいるから大丈夫だよ」という見守り、最終的には「しなくたっていいんだよ」という安心感の中で、彼が選んだのは〝やってみること〟。
その結果、最高の笑顔で本番を終えることができました。
そして今、大きな自信を手に入れた彼は、お家で弟に「挑戦することが大事なんだよ!」と言い聞かせているそうです(笑)
「頑張れ!」と子ども達に言う時、そこには追い詰めるような緊張感ではなく、おおらかさと、安心感と、自分で決めることが大切だということを学びました。頑張らないといけないのは我々の方なのです。
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