天使こども園ニュース

こどもの眼 7月号 園長 早川 成

  • 2022.07.05
  • 園長

「こどもの眼」~ ニーズに応える ~ 園長 早川 成

早くも梅雨が開けました。
予定している保育や行事を考えると嬉しいのですが、異常な気温の上昇、水不足や集中豪雨等、しっぺ返しが心配です。災害や熱中症等の事故が起きないようにと祈るばかりです。
さて、梅雨の季節になると思いだすエピソードがあります。
ある朝、登園してきた男の子が、閉じた傘を黙って私に差し出しました。
「おっ、傘持って来たね。これで雨が降っても大丈夫だね!」と私が言うと、その子はやっぱり無言で私に傘を向けるのです。
「わかった、お気に入りの傘なんだね?恐竜の絵が付いとるやん。カッコいいなぁ!」
すると、更に傘をグイっと突き付けてくるのでした。
「なになに?」と戸惑っている私に、その様子を後ろで笑って見ていたお母さんが言いました。
「園長先生、違います。先っちょですよ。」
そう言われて傘の先をよく見ると、そこには小さなナメクジが…。
「ありゃ、ナメクジがくっついとるやん!なんだ、そういうことかぁ。」
その子は、ニヤッと笑うと、嬉しそうに園庭を進んで行きました。
いやぁ、そこにナメクジがいるとはさすがに気が付きませんでしたね。
その子のアピールしたかったことが分かったとたんに、最初の勘違いトークが恥ずかしくなりました。
子ども達が、毎朝どんな気持ちで登園してくるか、門にいる園長に何を仕掛けてくるか(こないか)は、子どもによって違いますし、同じ子でもその日の気分によってまちまちです。
私にとっては、門できちんと挨拶ができるかどうかよりも、朝一番に何が起こるかが関心ごとです。
表情を見てその日の調子の良し悪しを伺いながら、子ども達の仕掛けに合わせてどんなリアクションをしようかと考えたりしています。
ある朝、女の子たちが怖い顔をしてやってきました。
「どうしたの?何か怒ってる?」と聞くと、「海賊だ!!」と言うのです。
「そうか、それで怖い顔をしてるんだね?」と私が言うと、「そうだ!」と怖い声で答えます。
さぁ、始まりました。園長は彼女たちの期待に応えることができるでしょうか?
「宝物を探してるんですか?」「・・・」
「私も宝物が大好きなんです。海賊の仲間に入れてください!」「ダメだ!」
「どうしてですか?力持ちなので役に立ちますよ!」「・・・」
「じゃあ、宝物が見つかったら教えてくださいね?」「ダメだ!」
(さすが海賊ですね、答えは全て、無言かNo!です。)
すると、その様子を近くで見ていた教師が笑いながら言いました。
「海賊さん、私も仲間に入れてください!」「いいよ!」
「じゃあみんなで宝物を探しに行こう!「エイエイオー!!」…というオチでおしまいです。
子ども達の突然の仕掛けに、その場で臨機応変に対応するのは、難しくもあり面白くもありです。
いきなり始まったストーリーに必死にリアクションしますが、こども達が満足するかどうかには当たり外れがあるのでした。
またある朝、門から離れてツリーハウスの近くにいたら、お母さんから声を掛けられました。
「群先生かと思って近づいたんですが、振り返ったら園長先生でした。後ろ姿がそっくりですね!
本人はガッカリしているんですけど…。」と言って笑っていらっしゃいました。
そこで隣にいる子に目をやると、とっても浮かない顔をして、うなだれているのでした。
群先生を見つけて嬉しかったのに、本当にガッカリしたようです。
「声と後ろ姿はよく間違われるんですよ。それにしても、めちゃめちゃ落ち込んでるじゃないですか!」と私も笑いました。
子どもって先生の後ろ姿にも期待しているんですね。とても嬉しいことですし、やりがいでもありますが、常に見られていると思うと、その責任や影響力に身が引き締まる思いにもなるのでした。
こども達が仕掛けてくる様々なことや、多種多様な期待に応えること、つまり、子ども達の〝ニーズに応える〟ことに一生懸命になることが、幼児教育には特に求められていると私は思っています。
個々のニーズを捉え、興味があること、やりたいこと、できないこと、やったことがないこと等々、年齢や成長段階に合わせた「育ちのニーズ」や「学びのニーズ」に応じて、保育(遊びと環境)を提供することが大切です。
年長の男の子が、門に来て言いました。
「おうちに帰りたい…」「どうして?」
「幼稚園、楽しくない。」「そう?」
「だって、遊んでばっかりやもん。」
「何がしたいと?」「勉強!」
年長の女の子が職員室に来て言いました。
「園長先生、手がヤバいことになってるっちゃけど…」
見てみると、掌の皮が百円玉ぐらいの大きさにむけています。雲梯でできていたマメがつぶれたようです。
この子たちの育ちのニーズはそれぞれに違うでしょう。その異なるニーズに、それぞれどのように、どうやって応えていくのか?それが保育、それが天使流です。

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