こどもの眼 9月号 園長 早川 成
「こどもの眼」
~〝つぶやき〟に
耳を傾けながら ~
園長 早川 成
ある朝のこと、いつものように数人の子が門に集まってきて遊んでいましたが、年少の子が門の外にいる私のところに来たくて出てしまったのに気が付いた年長の男の子が、その子を引き留め、門の中に戻るよう促しながらボソッと言いました。
「ねぇ、誰がここから出ていいって言った?」 怒った言い方ではなく、かといって優しく言って聞かせるのとも違い、ぶっきらぼうさと丁寧さが入り混じったような言葉のかけ方がとっても面白くて、本人も周りの子もどうして私が笑っているのかわからずに不思議そうにしていましたが、笑いのツボに入ってしまい、しばらく笑いが止まりませんでした。
何といってもその言い回しがよくないですか?この言い方、久しぶりに聞いた気がします。しかも、子どもが子どもに言っているところが面白い。お兄ちゃん面して言っている年長さんに対して、言われている年少さんは意味が分からずキョトンとしていて、そのコントラストがとても愉快なのでした。
それにしても、こんな言い回しをどこで覚えたんでしょう?自分自身のことを振り返ると、「コラッ、誰が遊んでいいって言った!」「オイオイ、今そんなことしろって誰が言ったんだ?」等々、先生に叱られている場面や、我が子を叱っている光景が目に浮かびますが、単純に言葉の意味を裏返して言い直すと「許可を得ないと遊んではいけない」「言われたとおりに行動しなさい」ということになり、ハッとさせられます。
クスッと笑ってしまうほのぼのエピソードの中にも、こどもの使う言葉には改めて気が付かされることもたくさんありそうです。
夏休み中の研修で、子どもの育ちについて学ぶ機会が沢山ありましたが、「こども達にとっては、耳から入ってきた音声を記号として捉えた〝ことば〟と、経験によって心の中に生まれた〝意味〟が結びついていくことが大切。そんな子ども達の〝つぶやき〟に耳を傾けましょう」という話を聞きました。この二学期、泣いたり笑ったり怒ったりの沢山の経験の中で、こども達がどんな場面で、どんなことを伝えようとして、どんな〝ことば〟で表現しているかにしっかり耳を傾けましょう。そして、私たち大人も、子どもたちにかける〝ことば〟の一つひとつを吟味して、気持ちを添えて関わって行けるよう心掛けたいと思います。
ところで、実はこの原稿を書き始めたのは新学期初日の8月29日。てんし通信の原稿と、休み前に教師達から頼まれていた運動会で使用する道具作りが全くの手つかずのままで、宿題をしていないのに夏休みが終わってしまった小学生のようにジタバタしながら、いよいよ二学期が始まりました。
運動会、登山遠足、作品展、クリスマス、もちつき…と、たくさんの行事が目白押しですが、毎年お伝えしているように、どの行事も当日の出来映えや結果ではなく、毎日の保育やご家庭の様子からお子さんの成長を感じていただきたいと思っています。そのために、二学期は一学期以上に意識して子ども達とやりとりをしましょう。何でもない会話を楽しみましょう。子ども達の〝つぶやき〟に耳を傾けながら、楽しんで過ごしていきたいと思います。
二学期のスタートにあたり、一学期に子ども達からもらった素敵な〝つぶやき〟のプレゼントをお裾分けします。
①内科健診で、あひる組さんが裸んぼで順番を待っている時のこと。
私「じゃあ、お風呂に入って待っとこう。まずは身体を洗って…。次はお友達の背中をこすってあげよう!」
女の子「これ、お母さんとやってるやつだ」
②分かり合える喜び
男の子「昨日、寝とったら蚊が飛んできた」
私「プ~ンっていう嫌な音がするやつやろ?」
男の子「そう。あれ嫌いやん。寝られんけん」
③家庭の事情(その1)
女の子「園長先生見て。私、自分で爪切った」
男の子「オレお母さんが切る。自分で切ったらいかんって言うけん。」
④家庭の事情(その2)
A「うちのお父さんとお母さん、お金が足りないって言いよる。」
B「うちもお金ないよ。一緒やね」
⑤素朴な疑問…
年長児「なんで屋根があると濡れんちゃろうか?」
いかがでしょうか?「もしかしてうちの子?」と思い当たった方の中には、笑える方も笑えない方もいらっしゃるかもしれませんが、とにかく生活の中にある子どもの〝つぶやき〟は感性にあふれています。何でもない日常の中に、彼らの「成長の足跡」を沢山見つけることができるということを少しでも感じていただけたらと思います。目の前にある宝物を見逃さないように、毎日を大切に過ごしていきましょう
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