こどもの眼 6月号 園長 早川 成
GW明けの月曜日の朝、年少組の女の子が「園長先生、あのね…」と話しかけてきました。
連休明けだし、ニコニコと嬉しそうでしたので、どんな話が聞けるかと楽しみにしていると、「あのね、鼻の穴に指を突っ込んだら鼻血がでるよ!」と言って笑っています。
私は「う、うん。そうだね。先生も小さい頃、鼻くそをほじくっていて、鼻血が出ちゃうことがよくあったなぁ。気をつけないとね!」と返したのですが、たったそれだけのことをとても嬉しそうにお話してくれる姿が微笑ましくて、いい一日のスタートになりました。
次にやってきた年長さんの男の子は、「お休みのとき、おじいちゃんのとこに行って来たよ」と報告してくれました。
「そう、おじいちゃん喜んだやろ?楽しかった?」と聞くと、「おじいちゃんね、寝てばっかりやった。」とのこと。
私は、「そっかぁ、おじいちゃん寝てばっかりやったかぁ…」と言いながら、おじいちゃんとその子のやりとりを想像して、ほっこり幸せな気分を味わいました。
私はこんな子ども達のたわいないお話が大好きです。そして、幼児期には、こんな〝どうでもいいお話〟をたくさんしておくことがとても大切だと思っています。
ところで、園ではこんなやりとりがしょっちゅう見られますが、子ども達は大きくなるにつれて、「なに言ってんの?そんな話、今は関係ないでしょ?」とか、「またそんなどうでもいい話して。もっと大事なことがあるでしょ!」とか、言われてしまいがちです。
いや、大きくなるにつれてどころか、小学生になったとたんに、たわいのない、どうでもいい、くだらない話は、ほとんどが、意味のない、何の役にもたたない、無駄な話にされてしまっていないでしょうか?
お話がしたい、話を聞いて欲しい子は、「人の話をちゃんと聞きなさい!」と叱られ、「話を聞く力がついていない子が増えている!」と問題視されているように思います。
私達に向けられている〝こどもの眼〟は、「あのねあのね」と語りかけています。「聞いて聞いて」と訴えています。
話の内容が大人にとってどんな意味があるかとか、相手がどう思うかとか、そんなことは関係ありません。
自分が言いたいことや、伝えたいことが先なのです。
聞いてみると、何の話かわからないことも多いのですが、それでもいいのです。だって、ただただ〝しゃべりたい〟のですから。
私は、自分の言いたいことをいっぱいお話しした子、自分が思っていることをたくさん聞いてもらった子ほど、人の話を聞くことができる子になると思っています。
子ども達と関わっていて、お話ししたいことがたくさんある子は、私の話も楽しんで聞いているように感じるのです。
つまり、話を聞いてもらえるという安心感があり、たくさん聞いてもらったという満足度が高い子は、お話をしたり聞いたりすること、会話や対話を楽しむことができるようになると思っています。
聞く力は、おしゃべりを我慢させることではつきません。
集中力も同様で、注意がそれるたびに厳しく叱って、集中できるようになったとしても、実は、集中力ではなく〝忍耐力〟が育っていただけだとしたら残念なことです。
聞く力も集中力も、誰かがつけるものでも、教えられてつくものでもありません。
物事や人に興味関心を持ち、いろいろなことをやってみたいと思う意欲が芽生え、好きなことに夢中になったり、失敗しながら試行錯誤を楽しんだりする経験を重ねるうちに、自然と育つものだと思っています。
ですから、今のうちに、たわいない話をいっぱいして、笑ったり、じゃれあったりしながら、一緒に楽しむ時間を大事にしておきたいと思っています。
とはいえ…です。一見どうでもいいようなことを繰り返しながらも、年長さんと遊んでいると、たわいなさや、あどけなさとは一味違い、「おおっ」と驚かされたり、「う~ん」と唸らせられたりすることが時々あります。
先日、年長さんと焚火で鍋を作って食べました。
年中の時に、わちゃわちゃの森で何度となく経験してきた焚火遊びでしたが、マッチで火をつけるのに苦戦しました。
我こそがと手を挙げた子が列を作り、一人ずつマッチを擦りますが、一巡しても火が付きません。
そこで、二巡目に入る前に、どうして火が消えてしまうのかを子ども達に問いかけてみました。
すると、一人の子が「風が吹いとるけん消えるとばい。鯉のぼりが泳ぎよるときは、火つけちゃいかん!」と、言ったのです。
ちょっと驚きました。
風で火が消えてしまうということだけでなく、鯉のぼりの動きで風の強さを感じることができているんですね。
「おっ、いいことに気が付いたね。凄い凄い!」と感動しつつ、マッチ係の列に目をやると、それを聞いた次の順番を待つ子が、マッチを手に構えながら、真剣な眼で鯉のぼりをにらみつけているのにクスっとしてしまいました。
子ども達はまだまだ幼いなかにも、時折大人顔負けの姿を見せることもあり、しゃがんだり背伸びをしたりしながら成長しています。
皆さんお分かりのように、ジャンプするときは、一旦しゃがまないと高く跳べません。
子どもの頃に背伸びしすぎて伸びきってしまうより、いっぱいしゃがんで、いざという時に思いっきり跳んで欲しいと私は思っています。
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