こどもの眼 5月号 園長 早川 成
「こどもの眼」
~ 成長の階段 ~
園長 早川 成
ある朝、職員室から降りていき、門に向かって歩いていると、年中の男の子が声を掛けてきました。
「園長先生、ぼく足早いよ!見ててね!」(と言って走っていく)
戻ってきたその子に、「ホントだ!やっぱりいっつも走ってるから早くなるんやね!」と私が言うと、「ちがうよ、お肉をいっぱい食べてるからだよ。お肉は栄養があるからね!」と教えてくれました。
またある朝には、門に来た年少の女の子と、こんな会話をしました。
「園長先生あのね…。私、明日ホテルに行くの。」「へぇ~、お泊りしに行くの?」
「うん。ゼリーも持って行く!」「え~っ?ゼリー持って行って、ホテルに泊まるの?いいなぁ!」
と話をしていると、ちょうどRくんとお母さんが通りかかったので、「ねぇねぇ、お母さん。この子、明日ホテルにお泊りするって!しかも、ゼリーも持って行くんだって!」と話を振ると、「いいなぁ。私もホテルに泊まりた~い。」と乗ってきてくださり、ぼそっと私に「どこのホテルか気になって仕方ないですね…。」と笑いながら帰って行かれました。
この日は、昼過ぎに出かける時にもこの女の子が走り寄ってきて、やっぱり「明日ホテルに行くの。ゼリー持って…」と言ってきました。
家族でお出かけしてホテルにお泊まりするのはもちろんのこと、〝ゼリーを持って行く〟ことが嬉しくてたまらないというのが伝わってきて、こっちまでワクワクする気持ちになってきました。
さて、こんな具合に子ども達との毎日が戻ってきて、いよいよ新しい1年が始まったことを実感しています。
園庭のケヤキやクヌギの木もいつの間にか緑の葉でいっぱいになり、ツツジも色鮮やかな花をたくさん開かせて賑やかになっていますが、それに負けじと元気いっぱいな子ども達です。
運動場を縦横無尽に走り回り、頭を並べて何やらのぞき込んだり、泥だんご、貝殻、チョウ、ダンゴ虫と、いろんなものを握りしめては嬉しそうに遊んでいます。
ひと雨ごとに草木は成長し、虫たちが動き出し、子ども達には躍動感があふれています。
新年度のスタート、春から初夏に向けての〝生命のエネルギー〟を感じるこの季節が、私は大好きです。
さて、そのような中、私も気持ちの上では子ども達に負けないぐらい盛り上がっているのですが、〝躍動感〟とか〝生命のエネルギー〟とかには程遠く、ちょっと〝ヤバい感じ?〟になってきています。
先日のこと。残しておいた給食のバナナを、夕方おやつ代わりに食べました。
食べ終わったので、皮を休憩室のゴミ箱に捨て、それからトイレに行こうと席を立ったのですが、なぜかバナナの皮を持って洗面所に入ろうとしているのでした。
ドアを開けようとして間違いに気が付き、「あれ?何で洗面所?」と自分で突っ込みを入れて周りを見回すと、古賀先生がこっちを見て笑っています。
自分でも驚くやら恥ずかしいやらで、とりあえずバナナの皮をゴミ箱に捨てたのですが、その後ナント、またしても洗面所に向かっているのです。
ここまでくると、ちょっと戸惑ってしまいました。
忘れっぽくなり、勘違いが増えていることは自覚していましたが、思っていることとやっていることがこんな調子で無意識に食い違ってくると、ちょっと笑えなくなってきます。
おそらく、いくつかのことを同時にしようとすると、頭の中でこんがらがって、順番を間違ったり、やろうとしたことが飛んでしまったり、うまく処理できなくなっているのでしょう。気をつけなければいけません。
ところで、子どもにも時々同じようなことが起きますね。
一度にいくつかのことを指示すると、混乱してトンチンカンなことになってしまったり、難しいことを言うと、意味がわからないままとりあえず行動するので全く別のことをやってしまったりします。
結果、「何でそんなことする?」「どうしてそんなことになった?」ということになるのです。
60歳になる私の場合は〝老化〟、6歳になる年長さんは〝成長〟と、言葉は違いますが、同じような課題があるように思います。
その昔、私に〝子ども理解〟の基礎を教えてくだった恩師が、「こどもの成長を七五三でお祝いし、大人になると25、42、61歳で厄払いをするように、人の成長には階段のように上りと下りがあり、その節目節目に心掛けておくべき大切なことがある。」と、言っていたことの意味を今更ながらに実感しています。
特にこれから成長の階段をどんどん上っていく子ども達に関わるときには、その「理解する力」を見取り、「処理できる能力」を見計らうことが必要です。
そうしないと、まだすべきでないことを無理にやらせて自信を無くしたり、せっかく喜んで自分の力でやったのに叱られてしまって意欲が持てなくなったりしてしまうからです。
これから夏に向けてますます活発になってくる子ども達。私自身は下り坂を転がり落ちないように気をつけながら楽しんで過ごしていきたいと思っています。
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