こどもの眼 2月号 園長 早川 成
「こどもの眼」
~ だまし合い ~
園長 早川 成
今では面影もありませんが、小さい頃は好き嫌いが多く、食が細い子でした。
周囲の大人から「食べんと大きぃならんでぇ」と言われたり、バーベキュー大会の時にピーマンがどうしても食べられず、おやつのアイスがお預けになって辛い思いをしたことを覚えています。
そんな中で特に強く記憶に残っているのが、「絶対おいしいから。だまされたと思って食べてごらん。」という母親の決まり文句です。そして、食べてみた結果、おいしかった試しがないという記憶もまた、脳裏に刻まれているのです。
不思議に思うのは、おいしいからと言われて、疑いながら食べてみたら「ほんまや!」と、あのお笑い芸人のようなオチになるならともかく、「やっぱりおいしくないやん!」という目に合うのに、当時の私は「もう信用できん!二度とだまされないぞ」とは思わなかったのでしょうか?
どうして何度もだまされ続けてきたのでしょうか?
これは想像ですが、当時の我が家の食卓は、出されたものは食べなければならないという躾(しつけ)よりも楽しく食べることを大切にしていたのではないかと思います。
「食べてみ!」「いや絶対まずいやん」「大丈夫、だまされたと思って…」「パクリ、うぇマズ~」「あはは、でも食べれたやん!」
みたいな、だます親と、だまされる子のコントのようなやりとりを楽しんでいたのではないかと思うのです。
門に遊びに来る子が、「これ食べて見て!」と砂を入れたカップや、泥を包んだ葉っぱなど、いろいろな物を持ってきます。
私が「これなに?」と聞くと、「おいしいカレー!」とか「マグロのお寿司!」とか言って、うれしそうにニコニコ笑っています。
「ありがとう!あぁおいしそう…」と手に取って食べた瞬間、ニヤッと笑って「それ、毒が入っとる!」と言って逃げていく子ども達。
それを私が「だましたなぁ!」と言いながら追いかける。こんな遊びを楽しんでいます。
ビールが欲しいと言うと出てきますし、毒入りだろうと疑えば、絶対に入ってないと言います。
だまされないぞと拒否すると、あの手この手で何とか食べさせようとしてきます。
爆弾が入っていたり、苦いのや辛いのがあったりと、工夫して持ってくるので、私は毒が入っていれば苦しみ、爆弾であれば爆発し、激辛だとヒーヒー言わなければならず、リアクションも大変ですが、そんな〝だまし合い〟を楽しんで遊んでいます。
親にだまされ続けて育てられた子は、今では好き嫌いもなく、食べ過ぎに悩むほどになりました。
そして今、園長をだますのを面白がっている子ども達に〝だまされたふり〟をしながらじゃれあっています。
やれ躾だ、やれ教育だと力を入れず、お互いにだましたり、だまされたりしながら育ち合うのも理屈抜きにいいものです。
3学期も残りあとわずか。寸暇を惜しんで子ども達を〝だまくらかして〟遊びたいと思っています。
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