こどもの眼 4月号 園長 早川 成
「こどもの眼」
~ こどもスタート ~
園長 早川 成
春休み中、職員室で仕事をしていると、カラスが白い紐を口にくわえ、園庭を横切って飛んでいきました。
目で追うと、ツリーハウスのある楠の木に止まりました。
しばらくして見に行くと思っていたとおり巣をかけていましたが、紐を上手に使っているので、感心してしまいました。
この白い紐は、私たちがPPロープと呼んでいるナイロン製のもので、物を束ねたり、縛ったりするのによく使います。
卒園した年長組さんは秘密基地づくりでこのロープを張って縄張りにし、ブルーシートに結んで屋根を作ったり、竹を縛ったりして遊んでいました。
このように、当園では作業だけでなく森遊びや工作でも大活躍の必須アイテムですが、それをカラスが巣作りに使っているなんて…。
「さすが天使のカラスは、そこら辺のカラスと違ってレベルが高い!」と、自画自賛して笑ってしまいました。
ところが、春休みの間、のんびり巣作りに励んでいたカラスの夫婦が、4月7日を境にして落ち着かなくなりました。
自由登園による新学期のスタートでしたので全員ではありませんが、園庭に子ども達が戻ってきて急に賑やかになったので、環境の変化に戸惑っているようです。
ツリーハウスの近くで遊んでいる子どもたちを警戒しているのが分かります。
門に立ってその様子を見ていると、高いところから園庭を見下ろしたり、行ったり来たりを繰り返したり、かなり不安になっているようでした。
ところが…です。せっかく賑やかになった園庭から、またしても子どもたちの声が遠ざかって行ってしまいました。
カラスはホッとしているかもしれませんが、寂しい限りです。
満開の桜をこんなにも気に留めない春が今までにあったでしょうか?
いつもだったら、門では、緊張した表情でやってくる新入園児さんをダンゴムシが歓迎し、園庭には子ども達をおんぶに抱っこで遊んでいる教師たちの姿と元気な泣き声が響き渡っているはずなのに…と、つい考えてしまいます。
そんな季節の風物詩を目にすることができないまま4月が過ぎていきます。
カラスにとって安全安心な子育て環境は、皮肉にも私たちにとって、とても辛いことになってしまいました。
私たちは今、新型コロナウィルスの感染が日に日に広がっていくことに脅かされる毎日を過ごしていますが、私は〝先の見通しがつかないこと〟と〝自分ではどうしようもないこと〟の不安がこんなにも大きく、ストレスになるということを身に染みて感じています。
3月末、年長さんが預かり保育の最終日に職員室にやってきて「小学校に行きたくない…」と、不安げに言いました。
またあるお母さんは、「小学校に行くことは幼稚園に来なくなるということなんだということが、まだよくわかっていないみたいなんです。」と言っていらっしゃいました。
感染症と小学校入学を比べるわけではありませんが、この先いったいどうなるのか?自分の身に何が起こるのか?わからないことだらけなのはとても怖いことです。
子ども達が感じている不安やストレスを、ちょっとだけ理解できたような気がします。
それからもう一つ。
今回、新型コロナウィルスの感染拡大防止について、国の要請や自治体の指針が示されるたびに、何度も何度も判断を迫られました。
その決断の時に私が考えたのは、「本当に大切なものは何か!」「一番優先すべきことは何か!」ということです。
自由登園を中止し、入園式も取りやめて、保育園と預かり保育のみの登園にさせていただいた時、「子ども達への感染拡大を何としてでも防がねばなりません」「こどもの安全安心を最優先して決断しました」とお伝えしたことがそうです。
ご家庭の事情やお仕事の都合によっては大変な方もいらっしゃることと思いますが、
皆様に御了承いただいていることに、心から感謝いたします。
さて、当園は「こどもファースト」を柱にしていますが、特に本年度は、〝去年もやったから〟や〝今までそうだったから〟ではなく、目の前の子ども達とまずしっかり向き合い「こどもからスタートしよう!」、一人ひとりの成長を捉えながら「自分達の保育を創ろう!」と話し合って新年度を迎えました。
認定こども園は子ども・子育て支援新制度に位置づけられていますが、〝子育て〟の前には〝子ども〟がいます。
天使こども園は、子育てを支援しながらも、子どもの命を、子どもの育ちを守らなければなりません。
ウィルスの脅威の前に何を優先すべきかで国中が揺れていますが、この待ったなしの状態の中で、子ども達の安全が、子育て家庭の安心があと回しにされていいわけがありません。子ども達を守る砦として、「こどもスタート!」と叫びたいと思います。
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