園長コラム「こどもの眼」5月号
~ 成長の軌跡 ~
園長 早川 成
毎年のことながら、この季節は元気な泣き声と共に一日が始まります。TVや新聞の天気予報ではわからないこの〝春の嵐〟は、お家と園との気圧(環境)の差により強い寒波(不安)が押し寄せ、大気(気持ち)が不安定になることで発生しますが、やがて逆方向から寒波に負けない暖かい季節風(安心)が流れ込むことで少しずつ収まってきます。例年GW明けには安定の兆しが見え始め、5月も中旬過ぎ(家庭訪問が終わる頃)には随分と落ち着いてきますので、どうぞご安心ください。ただ、まだしばらくは天気(心の状態)が不安定で、冷たい雨や強い風が吹くことも多く、油断していると突然お天気が崩れることもありますので、外出(登園)の際には注意が必要です。毎朝の空模様や気温のチェック(表情や体調の観察)を忘れないようにしましょう。ご心配の方は、どうぞお気軽に気象予報士(教師)にお尋ねください。大気の状態(気持ちのバランス)や風の強さや方向(園での安心の度合いや楽しめている遊びの中身)等について知っていただくことで、少しでもご安心いただければと思っています。以上、天使気象台お天気リポーターの早川が朝の門前よりお伝えいたしました。
…と、この仕事ならではの〝季節の風物詩〟とも言える光景を眺めながら、いろいろなことを感じたり考えたりしているうちに、昔のことを思い出しました。
落ちている葉っぱを拾うのを楽しみに、やっとのことで門の少し手前まで来ることができるようになった子がいました。私が近づいていくと、ちょっとだけ嬉しそうに葉っぱを見せてくれるのですが、そこからあとわずかな距離がその子にとっては遠いようで、なかなか進めないのでした。何とか門にいる私のところまで来て、そして一人で園庭に入って行けるようにと、道路から門の中まで葉っぱを並べて落とし、一枚一枚拾っているうちにいつの間にか歩いて行けるようになればと願ってその子が来るのを待っていたことがありました。また、私が着ている「機関車トーマス」のTシャツが気に入った子は、私を頼りに(というよりはTシャツ見たさに)少しずつ泣かずに来るようになりました。支度を済ませて外へ出て来るとまず門に来て遊ぶことから始まり、やがて他の楽しみや友達が見つかると門から離れて遊ぶようになりました。またある子は、「園長先生に聞きたいことがあるそうです。」とお母さんが言うので、どんな話をしてくれるのかワクワクしながら顔を覗き込んで「何かな?」と尋ねると、「幼稚園を辞めるにはどうすればいいですか?」と真顔で相談されてズッコケそうになったこともありました。皆その後は毎日元気に来て楽しんで帰るようになり、無事に卒園していきました。もう高校生ですが、今頃どうしているでしょうね?当時のいろいろな出来事を思い出し、一人ひとりの顔を思い浮かべながら、毎日どこでどのように過ごし、どんなことを楽しみ、どんな時にキツイ思いをしているだろう?どんな友達ができ、どんなことをやってみたいと感じ、どんな夢を抱いているだろう?そんなことを考えると嬉しくなってきます。「こどもの成長」っていいですね!園生活には不安がいっぱい、子育てには悩みはつきものです。離れ際にしがみついて泣かれたりすると本当に辛い気持ちになると思いますが、それは、子ども達の「成長の軌跡」が全て「ママがいい!!」から始まっているということの証です。この時期の苦労や心配は〝困ったこと〟と同時に〝大切なこと〟ですので、どうか今の様子を子ども達が大きくなるまで忘れずに覚えておいて欲しいと思います。子どもには「大人の背中」を見せて育てることが大事と言いますが、それはもう少し先のこと。この時期は我々が「こどもの背中」をたくさん見ておくことが必要です。但し、こどもの背中は抱っこやおんぶでは見ることができません。「ママがいい!」から自分の意志で離れ、自分の足で歩いて行くようになるのを焦らずに待ちましょう。そして、やがてそのときがきた瞬間の、我が子の背中をしっかりと目に焼き付けておきましょう。
新年度を迎えて早一カ月が経とうとしています。4月当初は激しく泣いていた子が、ベソをかきながらでもお母さんと手をつないで歩いて門を入ってくるようになり、あちらこちらから聞こえてきていた泣き声の大合唱も、いつの間にか10時を過ぎるころにはパッタリと聞こえなくなってきています。ゆっくりでもいい、立ち止まりながらでもいい、しっかりと歩んでいく子ども達の「成長の軌跡」を、見守っていきたいと思っています。
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