天使こども園ニュース

こどもの眼 7月号 園長 早川 成

  • 2019.07.03
  • 園長

「こどもの眼」
~ 忘れる力 ~ 
園長 早川 成

「〝忘れない〟より、〝覚えない〟」という話を聞いたことがあります。年をとって忘れっぽくなったとか、何かにつけてウッカリが増えたとかをボヤくのをやめる。忘れないように努力したり頑張ったりせず、仕方のないことだとあきらめる。「どうせ忘れるんだから最初から覚えようとしないことだ」…という笑い話ですが、このちょっとした格言?が今、意外と役に立っています。最近、ほんの今思いついたことが次の瞬間に何だったかわからなくなったり、何でもないことが思い出せなかったりすることが増えているのを自覚しています。何かをするために動いたのに、何をしに来たのかわからなくなる。言葉が出てこなくて、アレとかアノとかが増える。(あの…ほら、あれたい!みたいな感じ)忘れないようにメモろうとして、ペンをとったとたんに何を書こうとしたのか忘れる。忘れないように前の日に玄関に置いておいたものを出かける寸前に靴を履いたとたんに忘れる…ってな感じです。こんな具合ですので、「あぁまたやっちゃった!」と笑える時はいいのですが、あまり続くと焦ったり、落ち込んだりしてしまいます。そんな時に、この「忘れないより覚えない」という言葉を思い出すと力が抜けて楽になります。つまり、忘れたことを受け止めることができるというか、開き直れるというか、一旦自分をリセットできる気がするのです。もちろん、そのあと思い出そうと努力したり、忘れないように工夫したりはするのですが、「まぁいいや!」と一度区切りをつけることができるというのは、とても大事なことのように思います。
さて、5月の始めのことですが、私が隊長を務めるボーイスカウトの集会に孫を誘って連れて行きました。人がたくさんいるところが苦手で、人見知りも強いのですが、その日の集会が森あそびだったので、それなら楽しめるし、いい経験になると思って連れて行きました。結果は…。集合の時点で列に入ろうとせず、森に行っても別のことをして一人で遊ぶ姿がありました。そんな時、身内というのは難しいものですね。我ながら不思議なぐらい、つい厳しくなってしまいます「こっちに来なさい!」「何で皆と一緒にしないんだ!」と、小言だらけの森遊びになってしまいました。園長としてならその子に合わせていくらでも楽しく遊べるのに…と、自己嫌悪のダメじぃじです。気を取り直して今度は誕生日プレゼントの下見に自転車屋に行くことにしました。ところが、店に入るとすぐに、ヘルメットは触りまくるわ、自転車にまたがって動かそうとするわで、全く言うことを聞かず、またまた叱り飛ばすことになりました。結局は、せっかく楽しみにしていた孫との日曜日が、指示と禁止、否定と叱責の一日になってしまいました。思う存分遊んで大満足のはずだったのに…。けろっとしている孫を尻目に私は消化不良です。悶々としながら帰宅しましたが、風呂に入って夕食を食べると、ちょっと気持ちが落ち着いてきました。一日を振り返り、自己反省しながら娘に電話しました。「今日は一日遊んでくれてありがとね。」と娘が言うので、叱ってばかりで終わった一日のことを報告しました。すると、娘が言うのです。「えっ?そうなん?めっちゃ楽しかったって言いよったけど。晩ごはん食べながら、ずっと森の話しよったよ。」
それを聞いた私は、「楽しかった?あんなに怒られたのに?」…と思いましたが、すぐに思い直しました。きっと忘れているに違いありません。あれだけダメ出しを食らっても楽しかったと言えるなんて、ある意味で大したものです。忘れることでめげずにいられるとも言えそうです。ただ、忘れているということは、効いてないということなので、これから先、何回でも同じことで指摘されたり叱られたりすると思います。でも、だんだん気が付いていくでしょう。少しずつ身についていくのを待てるように努力しようと思います。なぜなら、力で押さえつけたり、無理やり枠にはめようとしたりすると、その〝持ち味〟や〝いいところ〟を失ってしまうことになりそうだからです。
焦らず、思い詰めず、何度でも自分をリセットしながらやり直せばいい…。孫のおかげで、〝忘れる力〟は〝生きる力〟でもあるような気がしてきました。

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