天使こども園ニュース

こどもの眼 6月号 園長 早川 成

  • 2019.06.18
  • 園長

「こどもの眼」
~口は一つ、耳は二つ~ 
園長 早川 成

30数年も前になりますが、大学を卒業し、社会人として一歩を踏み出す際に母親から贈られた言葉は「9聞いて1しゃべる。人の話をしっかり聞きなさい。」という心得でした。
緘黙な父が言うならまだしも、しゃべりの母が言うのですから「よぉ言うわ!」と、笑ったことを覚えています。
似たようなことですが、「口は一つなのに、耳が二つあるのはどうしてか?」という話を聞いたことがあります。
「自分の言いたいこと(主張)よりも、人の意見を聞くこと(傾聴)を心掛けなさい」ということですが、おしゃべりの私には戒めの言葉として記憶に残っています。
さて、ここまで読んで下さった皆さんの中には、この教訓が全く生かされていないと思われた方がたくさんいらっしゃることと思います。 
以前、ある女の子から「パパがね、園長は話が長いって言ってたよ」と言われ、お母さんと笑ったことがあります。
自覚はしているつもりですが、お伝えしたいことや話のネタがいっぱいで、どうしても長くなってしまいます。
〝口から生まれてきた〟とも言われますが、自分では〝口が勝手にしゃべる〟と思っているぐらい重症です。
自覚のわりになかなか治りませんが、人の意見をしっかり聴くことは心掛けているつもりですので、ご勘弁いただければ幸いです。
ところが、相手が大人なら心掛け次第で何とかなっても、子ども達とのやり取りでは、そうはいきません。
一人ひとりの口は一つでも、たくさんの子が、一度に言いたいことを話し出したら、その全てに耳を傾けるのは無理な話です。
ある朝、「園長先生!クイズ出すよ!ボクのおうちには、こいのぼりがあるでしょうか?」と男の子が聞いてきました。
お家にこいのぼりが揚がったのでしょうね。とても分かりやすい質問で、嬉しそうな顔に答えが書いてありました。
どう返そうかなと迷いつつ「ある」と答えると、「じゃあ、どんなこいのぼりでしょうか?」と次の質問が来ました。
…がそこで一人のお母さんから話しかけられ、男の子との話は中断します。「あのね…」と続きを話したい様子なのですが、こちらも大事な話だったので「ごめんね。ちょっと待っててね。」と我慢してもらうしかありません。
でも、よほど話がしたかったのでしょう、お母さんとの話の間中、あきらめて立ち去る気配はありません。
私はお母さんの話に耳を傾けながらも、片方の耳には「お~い。話しとる場合かぁ!」「こいのぼりの話はどうすんじゃぁ」と、その子の声が入ってくるので、集中力を保つのに必死でした。
やがて、大人の話が終わり、再びこいのぼりの話がスタートしました。
お家のこいのぼりの説明がひと仕切り終わると、近くにいた子どもたちも参加して、会話がどんどん広がります。
「5月5日は男の子のお祝いだよ!」「じゃあ、女の子のお祝いはいつでしょうか?」「ひなまつり」「3月3日」という具合です。
と突然、「杖立温泉にもこいのぼりおるよ!」「知っとる。杖立温泉行ったことある!」と、こいのぼりの話が温泉に飛びます。
すると、「ボクのお母さんの誕生日は何月何日でしょうか?」と、新しい質問がきました。おそらく、5月5日、3月3日と日付の話題が続いたので、誕生日クイズを思いついたんだと思います。
こうなると、もう話は広がるどころか、散らばり始めます。
「私は何どしでしょうか?」(誕生日から干支に発展!)「ボクね、お母さんから石頭って言われとる。」(お母さんつながり?)
そして、「先生、てんとう虫がおった!」「私も色水つくりたい!」「ねぇ、小さいバスまだ?」「僕、釣りしたことあるよ」…と、皆が次々に思いついたことや言いたいことをしゃべり始めました。もはや何がどうなったのか訳が分かりません。
私は、一つ一つに耳を傾けながらも、それぞれに応えることはできず、「ふ~ん」「そうね」「よかったね」と、相づちを打つのが精一杯になるのです。聖徳太子は一度に10人の話を同時に聞き分けるといいますが、本当なら羨ましい限りです。
というより、相手が子どもでも一度に理解できるでしょうか?
私は、少なくとも天使の子ども達の話を一度に聞き分けるのは無理じゃないかと思います。
しゃべりたいことはたくさん、しかもその時に思いついたままの突拍子もないネタが飛び交うのです。
耳がいくつあっても、ダンボのように大きくても、無理でしょうね。
こどもの思いは、耳で聞くのではなく、〝心で聴く〟ことが大切です。
緘黙な子や、まだ言葉で上手く伝えられない子もいますし、ただ聞くだけでは理解することはできないからです。
胸の内を感性のままに伝えようとする子ども達を受け止めるためには、こちらも心を広げ、感性を研ぎ澄ませておくことが何より大事なのです。  
「えんちょうせんせー!」二人の女の子が、嬉しそうにやってきました。
「なに?どうした?」と私が応えると、「えんちょうせんせい、へんなかお~!」と言って笑うのです。
突然の告知に、私が「え~っ?どういうこと?」と言うと、「いみわからんねぇ」「うん、いみわからんねー」とゲラゲラ笑いながら行ってしまいました。意味が分からないのはこっちの方なのですが、朝から楽しくて仕方がないみたいです。
二人の背中を眺めながら、「なんかいいなぁ」と微笑んでしまいました。
 「9聞いて1しゃべる」はできなくても、「10聴いて、10しゃべる」(一生懸命聴いて、一生懸命にしゃべる)を心掛ることにします。
おしゃべりが治らないのは、母を見ていると一目瞭然だからです。DNAには逆らえません。

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